アナリストの眼

株式市場を牽引する生成AI

掲載日:2024年07月16日

アナリスト

投資調査室 加藤 真二

私たちが日々対峙する株式市場において、ChatGPTに代表される生成AIは重要な投資テーマとして注目を集め続けています。現在、生成AIでよく利用されている機能は、文章要約、外国語の翻訳機能、プログラミング補助、自然なやり取りを行うチャットボット、個人に合わせたパーソナライズ化等でしょうか。

私自身もよく生成AIを利用して知らない事柄についての調べものや文章案の作成、外国語の翻訳を行ったり、オフィス製品を利用して簡単なスライド作成やデータ加工に利用したりしています。従来のAIでは学習を基に決められた回答を出力したのに対して、より大規模なデータで学習した生成AIはテキストや画像といった様々なコンテンツを新たに生成することが出来るようになりました。また、対話形式で自然なやり取りが出来るようになったことでAIが私たちにとってより身近な存在になったのではないでしょうか。

このような革新的なサービスが広がる中、生成AIを通じたイノベーションを通じて企業業績への恩恵がまず確認されたのはハードウェアでした。高速並列計算を得意としAIの学習/推論に活用されるGPU(Graphics Processing Unit:画像処理装置)や、従来のメモリに比べて大幅に速いデータ転送速度を実現したメモリ等の半導体やそれらを支える半導体製造装置の需要が大幅に増加しています。更に、供給が追い付いていなかった半導体の供給が増えることでデータセンター/サーバー関連機器や、電力需要の高まりを受けて電力等のインフラ企業にも恩恵が波及しています。

これらの需要の推進力となってきたのは、米国のメガテック企業が、より画期的な生成AIをいち早く発表するためにしのぎを削ってきた開発競争です。巨大な検索広告の収益にも影響を与える可能性が高く、競争は熾烈です。更に、各国政府も生成AIの国産化に向けた動きを見せており、新規参入も活発です。

また、パソコンやスマートフォン等のデバイス上で生成AIが稼働するオンデバイスAIについても各社から製品/サービスが相次いで発表されました。オンデバイスAIにより、通信環境がなくても利用できること、端末上にデータを留めプライバシー保護が強化されることや、応答速度が早くなること等の特徴があり、これまで利用されていなかったシーンでの利用に繋がり、生成AIの活用はさらに広がることでしょう。

ソフトウェア/サービス領域の進展はどうでしょうか?現状では生成AIを利用することが可能となるクラウドサービスを中心に広がりを見せてはいるものの、生成AIの業績貢献、収益化はこれからといったソフトウェア企業が多いです。ソフトウェアで収益化が進んでいない背景には、激しい主導権争いが続き、進化のスピードも早い生成AI技術に対してまだ様子見姿勢があること、自社への最適な利用法の検討に時間がかかっていること、データセキュリティへの懸念、そもそもサービス提供側の供給が追い付いていない等があると考えます。提供側のビジネスモデルについても月額課金ベースや、消費量ベースでの課金等、試行錯誤が続いています。自然なやり取りはできるものの情報の正確性といった課題もありますので、顧客向けのサービスというよりはまずは、自社向けの利用で生産性向上を図り、コスト削減につなげていく動きが増えるのではないでしょうか。

証券会社のリサーチチームが実施しているIT支出の責任者であるCIOを対象にした調査では、AIは最も関心があるトピックスとして挙げられており、利用ニーズは強いです。サービス提供者側も生成AI関連のサービスはこれまでのサービスよりも早いペースで拡大していると説明しており、2024年後半から2025年にかけて収益化が進んでいく可能性があります。

収益化に苦戦するようであれば生成AIブームに水を差すことになりますので、注意が必要です。また、株式投資においては、継続的に収益を生み出せないと、株価バリュエーションは切り下がっていきますので、足元の業績動向のみならず、中長期の業界展望と、その熾烈な競争を勝ち抜くために必要な要素が何かを見極めることが必要でしょう。

最後に。我々アナリストの行く末はどうなっていくのでしょうか。生成AIが人間を置き換えていくという(我々にとっては悲観)シナリオもありますが、生成AIを活用して財務モデルのデータ入力等の作業や、大量のデータから効率的にトレンド/パターンを発見する等の財務分析に活用し、業務効率化を図り共存の道を探っていければと考えています。そして、アナリストにしか出来ないこと、例えば企業との対話を通じて企業業績の非連続な変化を予想する等を追及して、自身の付加価値を高めていければと考えています。生成AIは変化が激しいテーマですが、莫大な成長ポテンシャルを秘めており、今後もフォローを続け投資リターンの追求に邁進していきます。

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